好きな人が現れても……

「あーあ。結局また失恋か…」


逃げ去った同期を思って息を吐く。
食べ損ねた昼メシよりも去ってしまった女を追いかけたい気持ちを堪えた。


昨日、俺が横山にキスをしたと言ったら、課長は凄く動揺してた。

若い男が好きな女にキスしたくなる心境もきっと理解してた筈だろうに。



『……二度とするなよ』


何処かドスの効いた声だと思い、え…と声を発した。
直ぐに誤魔化され、それもまあ当然か、と思ったんだが。




(もしかして、課長は……)


至らぬことを考えそうになって頭を横に振り回す。

もしも、あの二人が上手くいったら、俺がしてきたことや言ったことはムダになってしまうんだから考えまい。


横山には悪いが不幸な結果になることを願っておこう。
応援するとは言ったが、成り行きを見守るだけにしておこう。


寂しそうにしてたら飲みに連れ出す。
俺なりに横山の心には残っておきたいから。



「俺って健気だなぁ」


自画自賛しつつ中へ入った。

同期の気持ちが受け入れられる日がくればいいな…と心の片隅で祈ってやったーーー。