好きな人が現れても……

俺も課長のことは嫌いじゃねえんだ。仕事は出来るし、やり手だと認めてるから。
だから応援だけはしてやる。やれるだけやって、早くフラれてくれよ」


…な?と最後に言った紺野君は、ひょいと肩を竦めて戯ける。
両手をズボンのポケットに突っ込み、どや顔で私を見てきた。


それを見てたら少し気持ちが軽くなってきて、泣き出しそうだった思いが晴れだした。



「ん…。頑張る」


そう言えたのも多分紺野君のおかげ。
紺野君は息を吐き、仕様がなさそうに微笑んだ。


「お前、もう直ぐ昼休み終わるんだけど、それ食べなくていいのか?」


指刺されたミニバッグの中身はおにぎり一個。
食欲がなくて取りあえず作ってきたのだ。


「そうだった。折角作ったから食べないと勿体ないね。それじゃ私、庶務に戻るわ」


ガチャとドアノブを回して背中を向ける。
背後から紺野君の視線を感じるけど、振り向かずにお礼を言った。



「ありがとう」


紺野君の返事は聞かず、ドアを押し広げて中に入ったーー。