好きな人が現れても……

お昼休み、社食の前で紺野君が待ち構えてた。
私が杏梨ちゃん達と来るのを見つけると走り寄って来て、「ちょっといい?」と訊ねる。

問われた私は無言で俯いたが、杏梨ちゃんが代わりに「いいですよー」と背中を押した。

差し出された貢ぎ物みたいな感覚に戸惑いながらも仕方なく背中を向けて歩く紺野君の後を追う。


午前中は課長の顔も見れないまま仕事をした。
目線が合うのではないかと思うと、パソコンの液晶画面から目が離せなかった。



紺野君は社屋の端にある非常階段へと向かって歩き、それに続くドアを開けると私が出るまでドアを押さえてくれていた。


パタン…と背中の方で閉まる音がして、ドクン…とイヤな心音が鳴る。
まさかとは思うが、この間の今日でまたキスされるとかはないよね……。


紺野君は手すりに寄り、腕を乗せて下を向いたまま息を長く吐き出した。

その姿を斜め後ろから見つめ、「何…?」と問いかけてみた。


紺野君は歯を食いしばってるのか、頬に力を入れてる。
ぎゅっと噛み締められる唇を見ながら、ドキッと胸が鳴ってしまった。