好きな人が現れても……

「ひろ〜、おはよう…」


寝ぼけ眼の娘を抱き上げ、頬にキスを落としながら、おはよう…と返す。
まだ眠そうな真央は俺の首に腕を巻き付け、そのまま眠ろうとしてる。


この腕に感じる重みを幸せだと思う。
これ以上の幸せをやはり求めてはいけないーーー。


ぎゅっと抱きしめてから真央を下ろし、簡単な朝ご飯を用意した。

早めに起きれば俺だってそれくらいはやる。
毎日とはいかないが、千恵がいないのだから仕方ない。



『課長の役に立てればいいのに…』


そう言った横山の言葉が思い出された。
お人好しなんです…と言った紺野の言葉も同時に。


二人の顔をミックスして思い浮かべ、やはり俺は彼女の気持ちを受け取ってはいけないと思った。

その誠意を拒否すればきっと横山を傷付けることにはなるだろうが。


その時は紺野が彼女を慰めてくれるだろう。
俺よりも若くて独身で未来ある若者が……。



そう思うと、何処か居心地の悪いものを感じた。
きっと戻ってこない若さが羨ましいだけなのだろう…と思い、手早く食事を済ませた。


ノロノロと食事をする真央を急かせて食べさせ、洗い物は帰ってからだと水に浸けて出かける。

出勤先で会う横山の顔を思い浮かべながら、とくん…と跳ねる心音と小さな吐息を漏らした……。