千恵は入院生活を余儀なくされたが、真央の方はそうもいかない。
一緒に入院しておくことも叶わず、千恵の母が一時的に真央を預かってくれたのだ。

毎日のように顔を見せに連れて行くのも難しかったが、それでも会えた日には手離さずに手元に置いた。

自分の命と引き換えに産んだ我が子を抱きしめたまま、息絶えたあの日までーー。



グシャと髪を握りしめ、思い出すな…と言い聞かせる。
真央を見てると、たまにどうしようもない絶望感に襲われる。

救うことも出来なかった妻に対し、申し訳なさだけが広がっていく。


そのおかげで、ずっと再婚も考えずにきた。
亡くなった妻に何も出来なかった俺が、幸せになるのは間違ってるんじゃないかと思うのだ。

千恵の命は真央に引き継がれたのだから、真央の幸せだけを見守ればいい。


この平和そうな寝顔が続くことを願うのみ。
それ以上のことを願ってはいけないーー。



ベッドから降りて洗面所に向かい、鏡に映し出された顔を見て、俺も老けたな…と呟いた。

ザバザバと飛沫をあげて顔を洗い流し、予約の済んだ洗濯物を干していると真央が起きだしてきた。