午後の仕事を取り敢えずこなしてオフィスを出たのは午後六時半。
実家へ行く前に本屋で立ち読みでもして帰ろうかと足を向けた。


この最近、終業後直ぐに実家へは行きたくない。
幼稚園であった事柄を延々と真央に聞かされ続けるのが苦痛な時があるからだ。


母からも親は貴方しかいないんだから…と言われてプレッシャーを感じる。
逃げ出せない日々の中で、少し遅くなって帰るのが癖になりそうだった。


本屋の新刊コーナーへ向かうと、向かい側の月刊誌のコーナーに紺野が立っている。
ぼんやりとしてるだけで、本を読む気配もない。


「何をしてるんだ?」


肩を叩くとハッとして顔を見た。
それから口を閉ざし、何も…と呟く。


「それにしては浮かない顔だな」


午後の横山もきっと同じ様な顔をしてただろう。
幸いにも俺は会議があり、殆ど部署におらずに済んだのだが。


席を立ってる間に横山は帰っていた。
お疲れ様でしたの一言をどう掛けていいか分からなかったのだろうと思う。


紺野に背中を向けて新刊の表題を眺めていると、ふぅ…と溜息を出した紺野が課長…と小さく呼ぶ。