千恵と結婚式を挙げた時、この女性に自分の一生を託そうと誓ったのは事実だから。


死別したからと言って、彼女との日々が無くなった訳ではない。

乳飲み子として残された真央を育て上げることが、千恵との約束だとも思っていた。


第一、自分よりも十近く下の横山には俺なんかよりも遥かに彩って欲しい未来がある。

若くて可愛い彼女ならもっといい相手が見つかる筈だ。


俺みたいな子持ちでなくてもいいし、おじさんでなくてもいい。
それこそ、営業部の紺野は彼女を好きだと言うような言葉を言ってたじゃないか。


あいつなら真面目そうだし似合いだろう。
諸手を挙げて賛成だって出来る。


真央には母親なんて要らない。
父親の俺がいさえすればいい……。



「そうだよな。千恵…」


自信のないように聞こえる声を引っ込めた。


幼いうちはまだいい。
だけど、先で真央は、今のように俺に気持ちを開いてくれるだろうか。


不安は全くない訳ではない。
だけど、これが俺の人生だと思うからーーー


「はぁ……」


項垂れると深い溜息が溢れ出た。
部署に戻るのが気が重いと初めて思う気がしたーーー。