気遣われて戸惑い、はい…とは言ったものの足が出ない。
立ってるのも辛い状態だけど、昨日のことがあって課長の側には寄れなかった。


「横山さん……?」


課長の視線はランチケースの中身と私とを行き来し、流石に変だと思ったらしい彼は、立ち上がると私の方に近付いてきた。


「どうしたんだ。何かあったのか?」


俯いてる私を下から覗き込み、私はその視線からも目を逸らせた。



「何もないです」


昨夜、紺野君にキスをされたのは自分の責任。
酔ってはいけない人の前で酔い、隙を見せてしまったからだ。


誰も責められたりしない。
責めるとすれば自分だけ。


「その割には様子がいつもと違うよ。悩み事があるなら聞こうか」


とにかく座れば…と言って肘の上辺りを掴む。
酔ってないと分かる。
課長の方が握り方が優しい。


ベンチのところまで歩かされて座らされた。
ヒヤリとする鉄の感触は、体の熱で直ぐに温もったけど気持ちいい。


課長はさっさとお弁当を食べ終えて、お茶をゴクゴクと音を立てて飲み込んでる。
その音だけを耳に入れ、目は少し先のセメントを見てた。