自分の後を追ってくる足音に耳をすませて焦る。

小走りして逃げる訳にも行かず、迷いながら歩いてた。


「…俺、これ以上一緒に居たら何もしない自信ねえからタクシーで帰れよ」


紺野君はそう言いだすと道端に進み、やって来た空車を呼び止めた。
振り向いた私の腕を引き寄せ、その後部席に押し込むと、バタン!と勢いよくドアが閉まった。




「またな」


反省の顔色でそう言って手を振る。
何処まで?と聞く運転手さんに住所を告げ、走り出す車内から紺野君を眺めた。


彼は肩を落としてシュン…としていた。
目を伏せたまま歩き出そうともしないで、私の乗ったタクシーを見送ってる。


ドキンドキン…と胸が大きく鳴り始め、彼のが触れた唇を触り、深く自己嫌悪に陥った。



どうして紺野君に愚痴ったりしたのだろう。
自分の片思いがどんなものかを、私は十分分かってた筈なのに。


そう思うとやりきれなくなる。
彼の目の前で酔ったこと自体も失敗だった。


課長には奥さんも亡くなってて、その人以外は誰も思ってないことを知ってた。
薬指のプラチナがそれを深く物語ってる。