嬉しそうな顔でお腹を撫でてる姿しか浮かんでこない。
一粒の涙も流さず、出産の日まで笑ってばかりいた。


「強い人だったよ。真央の性格はママ譲りだね」


悪く言えば男勝りな性格。
喜怒哀楽がハッキリしていて、ストレートな話し方をする女性だった。


妊娠の初期でガンが巣食ってると知っても怖気付く様子もなくて、「だったら余計に産むわ」と腹を決めた。

止めろと言うのに聞かなくて、後にも先にもあの時だけ泣いたっけ。



『産ませて欲しいの。貴方に未来を残したい』


俺が残って欲しかったのは妻だった。
そう思い返すと、真央には申し訳ない気持ちが広がってくる。



「……真央、横山さんが作ってくれたチョコバナナ食べるか?」


機嫌を直させるつもりで聞いた。
気の付く部下にレクチャーを頼んでて助かった。



「ん…」


唇を尖らせて頷く娘を見て、さっき別れた横山葉月のことを思い出した。
部屋を出る前、彼女も同じように唇を尖らせていた。



その表情はこの間も見た。
オフィスの社食でぶつかった時……。