コーヒーを飲むと課長は直ぐにギョーザ作りを始めようと言った。

でも、私はその前にしておきたいことが一つあった。



「課長、ご仏壇は?一応お参りしておきたいんですけど…」


此処へ来たらしておこうと決めてた。
私の声を聞いて課長は少し躊躇ってる。


「…いや、あの……仏壇は此処にはないんだ。位牌も妻の実家に置いてる」


「えっ…」


意外な答えに呆然とする。
課長は答えにくそうに目を伏せ、少し切なそうに続けた。


「此処にはない方がいいんだ。あれば時を止めたくなるから」


寂しげな声にドキン…と胸が震えた。
時を止めたくなる程、今も奥さんを思ってるってこと?


「そ…そうですか…」


言葉少なく納得。
だけど、胸の奥は張り裂ける様な痛みが走った。


「始めようか」


課長の声に顔を上げ、持って来たペーパーバッグの中身を触った。


「課長」


呼び掛けると同時に近付き、タッパーを三つ取り出した。


「…これ、夕飯に食べて下さい」


昨日自分用に作り置いたおかずのお裾分け。
小アジの南蛮漬けにきんぴらごぼう、それからキューリの中華風サラダ。