課長の部屋のリビングは居心地良かった。

目の前にあるピアノは誰が弾くのだろう…とか、この際余計なことはなるべく考えないようにしておいた。


「…ねぇねぇ、お姉ちゃんのお名前は?」


背凭れにお腹をくっ付けたままこっちを振り向いた娘さんに、まだ名乗ってなかったんだと思い出した。



「私は横山葉月と言います。よろしくね、真央ちゃん」


同じくらいの目の高さに合わせて言うと、真ん丸な瞳が細くなって垂れた。



(…あ…似てる…)


とっさに課長にそっくりだと思った。
目尻が垂れて笑うところが同じ。


「ハヅキちゃん幾つ?」


まるでお友達のように話しかけられ、う、うん…と苦笑しながら質問に答える。
無邪気過ぎる女の子の相手は愛由で慣れてるけど、この子にはそれ以上のパワーがありそう。


「どうにも片親のせいか、お淑やかさが足りなくてね」


コーヒーを淹れてきた課長は弱りながら言い訳。
人懐こくて元気がいいのは悪いことではないから、そんなことありませんよ…と答えた。