そう─────文化祭と体育祭である。

我が校では、土曜日に文化祭、日曜日には体育祭があるのである。

中学校生活最後、という訳で、各クラス気合いがはいっている。

「じゃあ、文化祭で何やるか決めまーす。意見ある人いますか?」

級長がチョーク片手に言う。

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話し合いの結果、劇になった。

まあ、体育館のステージでやれるものといえば、劇と歌くらいだしな。

しかし、疑問が一つ。

────なぜ、作品名が『異能力者達の戦い〜深淵より出し強者の魂〜』なんだ。
中二病こじらせすぎだろ!台本書いた人が作品名をつけたのだが………恥ずいぞ、絶対。

よし、俺は裏方にでも回ろうかと考えていたら、

「はい、なかなか配役決まらないと思うんで、先生曰く番号順でいいだろう、です」

という訳で、と言って、級長はスラスラと書いていく。
俺の名前は……っと。

え。

主人公だった。葵は、俺との二人コンビのヒロイン。

それからは、放課後やら学活やらで練習・制作し始めた。

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「栄太!早く能力を発動して!」
「やろうとしてる!だか、この手錠の物質か何かが妨害して、発動できない!!」
「くっ……そんな……栄太の大砲なら一発なのに!」
「ふ、そこまでのようだな、寒田葵」
「!?栄太、どうしたの!」
「栄太はもういないさ……」
「えっ」
『そう、彼は敵の能力によって、中身を入れ替えられてしまったのです』

「とりあえずここまでね!」

という声と共に、ちょっとした歓声がわく。
栄太とか葵とか、実名でやると恥ずかしさ増すし……早く帰りてぇ。

「よし、今日のところは解散ね!帰ってよし」
「っしゃ!!」

「あ、そういえば、他のクラスはもう終わってるんだっけか……ぼっち帰りかよ。」
と、隅に寄せられた鞄を取りながら呟いた。

「私も、ぼっち帰りになっちゃったから、一緒に帰らない?」

「まじで?いいぞ」
「ありがと」

赤く染まった空の下、二人並んで歩き始めた。

「あのさ、地球っていうか……世界って、何色だと思う?」
「へ?」
「あ、ごめん。意味分かんなかったよね!?何でもないよ、気にしな───」

「地球の見た目の色とかじゃなくて、青色、かな。」

「青?」

「青って綺麗だけどさ、食欲を押さえる効果があるらしいんだよ。ちょっとずつ、でも確実に何かを奪われてる感じかなー。表現しずらいけどさ」

「そりゃ、意外な答えだったわ」

「お前は?」

「単純に灰色かな。こんな世界、色なんてないと思うから───ってごめん、なんか暗くなっちゃったかも」

「別にー?」

「それならいいけど」

「お前さ、何があったのか知らねぇけど、相談しろよな。周りに人はいるんだから、頼らないと」

少し顔をうつむきげに、そうだねと彼女は呟いた。

「ねぇ、栄太は何かあったことある?色々、さ。他の人の顔を見るたび、あんな風な『普通』だったらなって思ったりとか」

「そんなん、普通にあるだろ」

友達のような、皆のような、普通の家庭がよかったなんて、数えきれないほど思ったことあるぞ?不平等なこんな世の中だ。反対のものは必ずある。幸せな家族があるのだから、不幸せな家族もある。

比較されて、陰口悪口オンパレード。

『普通』っていうのはきっと、綺麗で、夢を壊すようなドロドロのものでもなくて、圧倒的に多数なんだよ。

それが、運悪くはずれただけ。

運、なんだよ。

親を選べる子供がいるわけでもないし、国を選べる子供もいない。何もしなくていい人なんていないし、仕事をしなくていい大人もいない。

だから───不公平なんだよな。

「でもさ、日本に生まれれただけいいと思えばよくね?戦争もないし、平和なんだぞ?それにお前貧しくはなさそうだしさ。」

───二度とあんなの見たくねぇ。

教訓を活かさねぇと。

「だからさ、前向きになれよ。自殺とか考えたらぶっ殺すかんな?」

「前向きに、ね………。っていうか、殺すなー!」

「ふふっ」

「あはっ」

ちょっとした、世界にとっては本当に些細な笑いは、欠けてしまっていた俺達の心を少し満たした気がした。