「…………なんか、達也がそう言うと、気持ち悪い」
「なっ…おい気持ち悪いって…さすがにひどくないか?!」
達也が慌てたのを見て、卯月は吹き出す。
「うそうそ!ごめんね!そこまで思ってないから!」
「…ちょっとは思ってたのかよ………」
「あはは…」
脱力した様子の達也を眺め、いつも通りが1番だと卯月も笑う。
無理は、してほしくない。
「かっこつけなくてもいいってばー」
「かっこつけてねーし!たく…」
膨れる達也だったが、不意にぽんと私の頭に手を置いたのにびっくりした。
「え……?」
無言でわしゃわしゃと、まるで小動物でも撫でているかのような行動に、達也なりの慰めなのかなと勝手に結論づけて、にやける。
「ありがとっ!さすが1番の友達だよ!」
「…っ…どうも」
達也は一瞬何かを言いかけて、強ばった笑みを作った。
(?)
まあ、いいか。
その時はあまり何も思わずに、別れてしまった。
だいぶ心が軽くなったのを感じて、改めて達也に感謝していると、後ろから、
「あれ?卯月?」
という明るい声が聞こえた。
振り返ると、帰路を急ぐ希だった。
「の、希」
挙動不審になった私を見て首を傾げた希だったが、すぐに笑顔になる。
「1日の最後に会えるなんて、嬉しいなぁー!あ、今日ね、先輩と付き合い出したの!しってる?同じ部活だったよね!」
妙にテンションが高いのがわかる。
そうなんだと相槌を打ちながら、心の中では泣きそうだった。
そんな話、しないで。そう思うのを口には出せず、そのかわりにストレスが溜まる。
そんな可愛いことを言ってくれる親友が憎くて、そんな感情があることに驚いて。
その甲高い声でストレスが蓄積していく。
「あ、そうだ、今日水族館に行ったんだけど、これお土産でね、ペンギンの、」
「要らない!!」
思ったより激しい声音になって、自分でもびっくりした。
「え、…卯月?」
戸惑ったようなその顔さえも愛らしくて、雑誌から抜け出てきたようで。
理性の歯止めが、どうしても効かない。
「要らないって、言ってんじゃん…!」
「え、卯月?なんで怒ってるの?!」
その声を振り切るように、私は家へと駆け出した。
「卯月、待って!」
その声を背中に聞きながら、卯月は全速力で坂を駆け上った。
家に帰ると吐き気が襲ってきて、トイレで吐いた。苦しさに涙目になる。
乾いた喉に気持ち悪い胃液の味が広がる。
クリームブリュレなんて、やっぱり食べなければよかった。
苦い胃液を吐き出すと、嫌でもさっきのことが浮かんだ。
(私、最低だ………)
もっと苦しむべきだ。
私なんか。
親友を──────いや、私はもう彼女を親友とは思えなかった。そんなの身勝手な理由なのに、それで彼女を傷つけた。
その記憶すら吐き出して、何も無かったことにしてしまいたかった。
卯月はひたすら吐くと、母にひどく心配され、病院に連れて行かれそうになったが、もう寝ると言って突っぱねた。
親に対しても、私はなんて可愛くない子供なんだろうと思うと、乾いた苦笑いが浮かんだ。
朝になると、その頬には微かに泣いた痕がついていて、しっかり顔を洗った。
(学校、行きたくない)
でも、日常は私のことなど構わずに勿論回っていって。
電車に乗るのがひどく怖くなって、また吐き気に襲われる。
そこで、自分は対人恐怖症になってしまったのではないかと感づいた。
サボろうかとも考えたが、達也の心配する顔が頭にちらつき、無理に学校に行った。
だけど、授業の内容がまともに入らなくて、達也に、
「今日お前変だぞ」
と言われた。
心配してくれるのは分かっているのに無性に腹が立って、「うるさい…っ」とその手を跳ね除けてしまう。
「なんだよ」
当たり前だが、不機嫌になった達也は、「じゃあもう関わらないよ」と言って踵を返し、去っていった。
(…………っ……)
傷つけた。
傷つけたいわけじゃなかったのに。
どうして世界はこうも、上手くいかない。
卯月は口を抑えて、うずくまるときつく目を閉じた。
独り善がりだったかもしれない、迷惑だったかもしれない。けれど確かに、単純に、ばかみたいに私は先輩が好きだった。
こんなに引きずってしまうほど。
親友や友達を傷つけるほど。
翌日、私は学校を休んだ。
すると、放課後、達也が希と一緒に家に来た。
「なんで」
私が弱々しく問うと、希は真剣な顔で、
「卯月が心配だったからだよ!この前から様子おかしかったし…ごめんね?私が、何かしちゃったんだよね?ごめん!聞くから言って!」
「いや、多分俺だよ。ごめんな。傷つけること、無神経に言ったんだと思う」
「……!そんな…」
どうしてこんなに、優しい人ばかり。
耐えきれなくなって卯月は顔を覆った。
私が勝手に傷つけたのに、二人ともどうしてこんなに優しいのか。
磁石のように反発したり、甘えたり、私は随分身勝手で、そのせいでふたりとの距離はそのように反発して開いたり、縮まったりしていた。
静かに泣く私を見て、ふたりはおろおろとしだした。
「ごめん…大丈夫、大丈夫なの」
そう言って、私は希に先輩が好きだった話をした。それで、軽いノイローゼのようになっていたことも。
「ごめん、私、弱くてごめん。傷つけて、ごめんなさい…」
「卯月…」
希はふるふると首を振ると、私も卯月の気持ち傷つけてごめんね、と言った。
そして、気持ちを明るくするように、
「ほら!夕焼けが綺麗だよ!」
と言った。その声は少し泣き声が交じっていて、綺麗だねと、希は泣いた。私もつられて、静かに泣いた。
希が帰った後、達也は黙ってまだそこにいて。
謝ると、達也は仏頂面で、
「好きな女の振られ話聞くなんて、面白くねーに決まってんだろ」
と言った。
少し経ってからその意味を理解した卯月は、少し目を瞠ると、ゆっくりと息を吐いた。
「あり、がとう…」
涙声で笑うと、達也が涙を拭ってくれた。
まだどうなるか分からないし、すぐに先輩への気持ちを吹っ切れるか分からない。
けど、とりあえず確かなことは。
私はクリームブリュレよりは、スイートポテトが好きかもしれない。
「なっ…おい気持ち悪いって…さすがにひどくないか?!」
達也が慌てたのを見て、卯月は吹き出す。
「うそうそ!ごめんね!そこまで思ってないから!」
「…ちょっとは思ってたのかよ………」
「あはは…」
脱力した様子の達也を眺め、いつも通りが1番だと卯月も笑う。
無理は、してほしくない。
「かっこつけなくてもいいってばー」
「かっこつけてねーし!たく…」
膨れる達也だったが、不意にぽんと私の頭に手を置いたのにびっくりした。
「え……?」
無言でわしゃわしゃと、まるで小動物でも撫でているかのような行動に、達也なりの慰めなのかなと勝手に結論づけて、にやける。
「ありがとっ!さすが1番の友達だよ!」
「…っ…どうも」
達也は一瞬何かを言いかけて、強ばった笑みを作った。
(?)
まあ、いいか。
その時はあまり何も思わずに、別れてしまった。
だいぶ心が軽くなったのを感じて、改めて達也に感謝していると、後ろから、
「あれ?卯月?」
という明るい声が聞こえた。
振り返ると、帰路を急ぐ希だった。
「の、希」
挙動不審になった私を見て首を傾げた希だったが、すぐに笑顔になる。
「1日の最後に会えるなんて、嬉しいなぁー!あ、今日ね、先輩と付き合い出したの!しってる?同じ部活だったよね!」
妙にテンションが高いのがわかる。
そうなんだと相槌を打ちながら、心の中では泣きそうだった。
そんな話、しないで。そう思うのを口には出せず、そのかわりにストレスが溜まる。
そんな可愛いことを言ってくれる親友が憎くて、そんな感情があることに驚いて。
その甲高い声でストレスが蓄積していく。
「あ、そうだ、今日水族館に行ったんだけど、これお土産でね、ペンギンの、」
「要らない!!」
思ったより激しい声音になって、自分でもびっくりした。
「え、…卯月?」
戸惑ったようなその顔さえも愛らしくて、雑誌から抜け出てきたようで。
理性の歯止めが、どうしても効かない。
「要らないって、言ってんじゃん…!」
「え、卯月?なんで怒ってるの?!」
その声を振り切るように、私は家へと駆け出した。
「卯月、待って!」
その声を背中に聞きながら、卯月は全速力で坂を駆け上った。
家に帰ると吐き気が襲ってきて、トイレで吐いた。苦しさに涙目になる。
乾いた喉に気持ち悪い胃液の味が広がる。
クリームブリュレなんて、やっぱり食べなければよかった。
苦い胃液を吐き出すと、嫌でもさっきのことが浮かんだ。
(私、最低だ………)
もっと苦しむべきだ。
私なんか。
親友を──────いや、私はもう彼女を親友とは思えなかった。そんなの身勝手な理由なのに、それで彼女を傷つけた。
その記憶すら吐き出して、何も無かったことにしてしまいたかった。
卯月はひたすら吐くと、母にひどく心配され、病院に連れて行かれそうになったが、もう寝ると言って突っぱねた。
親に対しても、私はなんて可愛くない子供なんだろうと思うと、乾いた苦笑いが浮かんだ。
朝になると、その頬には微かに泣いた痕がついていて、しっかり顔を洗った。
(学校、行きたくない)
でも、日常は私のことなど構わずに勿論回っていって。
電車に乗るのがひどく怖くなって、また吐き気に襲われる。
そこで、自分は対人恐怖症になってしまったのではないかと感づいた。
サボろうかとも考えたが、達也の心配する顔が頭にちらつき、無理に学校に行った。
だけど、授業の内容がまともに入らなくて、達也に、
「今日お前変だぞ」
と言われた。
心配してくれるのは分かっているのに無性に腹が立って、「うるさい…っ」とその手を跳ね除けてしまう。
「なんだよ」
当たり前だが、不機嫌になった達也は、「じゃあもう関わらないよ」と言って踵を返し、去っていった。
(…………っ……)
傷つけた。
傷つけたいわけじゃなかったのに。
どうして世界はこうも、上手くいかない。
卯月は口を抑えて、うずくまるときつく目を閉じた。
独り善がりだったかもしれない、迷惑だったかもしれない。けれど確かに、単純に、ばかみたいに私は先輩が好きだった。
こんなに引きずってしまうほど。
親友や友達を傷つけるほど。
翌日、私は学校を休んだ。
すると、放課後、達也が希と一緒に家に来た。
「なんで」
私が弱々しく問うと、希は真剣な顔で、
「卯月が心配だったからだよ!この前から様子おかしかったし…ごめんね?私が、何かしちゃったんだよね?ごめん!聞くから言って!」
「いや、多分俺だよ。ごめんな。傷つけること、無神経に言ったんだと思う」
「……!そんな…」
どうしてこんなに、優しい人ばかり。
耐えきれなくなって卯月は顔を覆った。
私が勝手に傷つけたのに、二人ともどうしてこんなに優しいのか。
磁石のように反発したり、甘えたり、私は随分身勝手で、そのせいでふたりとの距離はそのように反発して開いたり、縮まったりしていた。
静かに泣く私を見て、ふたりはおろおろとしだした。
「ごめん…大丈夫、大丈夫なの」
そう言って、私は希に先輩が好きだった話をした。それで、軽いノイローゼのようになっていたことも。
「ごめん、私、弱くてごめん。傷つけて、ごめんなさい…」
「卯月…」
希はふるふると首を振ると、私も卯月の気持ち傷つけてごめんね、と言った。
そして、気持ちを明るくするように、
「ほら!夕焼けが綺麗だよ!」
と言った。その声は少し泣き声が交じっていて、綺麗だねと、希は泣いた。私もつられて、静かに泣いた。
希が帰った後、達也は黙ってまだそこにいて。
謝ると、達也は仏頂面で、
「好きな女の振られ話聞くなんて、面白くねーに決まってんだろ」
と言った。
少し経ってからその意味を理解した卯月は、少し目を瞠ると、ゆっくりと息を吐いた。
「あり、がとう…」
涙声で笑うと、達也が涙を拭ってくれた。
まだどうなるか分からないし、すぐに先輩への気持ちを吹っ切れるか分からない。
けど、とりあえず確かなことは。
私はクリームブリュレよりは、スイートポテトが好きかもしれない。