7/24
彼女はだんだんと顔色が良くなっているように見えた。
だが、どうしてだろう。病状は回復に向かっていっているのだろうに、なぜかあまり嬉しそうじゃない。
そこだけ不思議だ。
…いけない。自分のことを日記に書くべきなのだ。そこから自分の心理状態までも映し出されるかもしれないのだから、これはわりと重要なはず。他人のことなど書くものでは、ないのだ。
でも以前書くことがないから仕方ない。ちょっと悲しくなるが、まあいいさ。




7/29
彼女の周りが何だか忙しい。
もしや退院するのだろうか。それならば、嬉しい。喜ぶべきことだ。
…はぁ。




7/31
今日も彼女はあまり笑顔を見せない。
点滴も外され、ほとんど様子見のような状態なのに、だ。家に帰るのが嫌なのか?何が憂鬱なのか分からないが、どちらにしろ僕に出来ることは何も無いし、する義理もないし、関係ない。
……だけど、退院祝いの花くらいは買ってやろうか。




8/1
医者に、寿命を申告された。
もって、一ヶ月だそうだ。
いきなりだった。
何となく予感はしていたから驚きはしない。




8/2
日に日に抜けていく髪の量、こけていく頬。もう何も感じなくなってきた。
ああ、死ぬならはやく楽に死なせてほしい。




8/3
$☆°%>々→♪
意味もない記号の羅列を書いてみても、何も変わらなかった。
今日も苦しいままだ。




8/4
彼女は明後日退院するらしい。
正直、複雑だ。




8/5





8/6
喧嘩した。
花を買ってきたら、要らないと泣きながら突き返された。
僕には、彼女がどうして怒るのか理解出来なかった。
どうして泣いているのかも、理解出来なかった。
だから謝ったら、彼女は意味の無い謝りなど要らないと言い、僕なりに考えた結論だったので少しむっとして、君のことなんて解らないと返した。
すると、彼女は泣きながらごめんなさいと言った。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
彼女は壊れた人形のように繰り返し呟いて泣いていた。
最後まで謝り続けながら、行ってしまった。
意味が解らない。
わからない自分が嫌いだ。
難しい彼女が、…………もういい。
なんでこれくらいでこんな長文になってしまったのだろう。
きっと彼女は元気になってもう病院には帰ってこないし、僕のことも忘れていくだろう。
それで、いいんだ。
もう寝よう。
おやすみ。




8/26
彼女は突然帰ってきた。
緊急入院だそうだ。
周りは蒼白で、みんな慌てた様子だった。
なんでも病状が悪化したらしい。ガン治療は一度は成功したものの、再発したという。
初めて知った。
彼女はガンだったのだ。
知らなかった。
知らなくて当たり前なのに、どうしてか腹立たしかった。
ガンの転移は、どこの内蔵にいったのか。
そこまでは聞けなかった。




8/30
もうすぐ、夏が終わる。
彼女にはドナーが出てこない限り希望がないらしい。
ドナーなんて、出てくるのだろうか。
ネットサーフィンして漁りに漁ったが、難しくよく分からなかった。健康体の臓器移植は肉親にしか認められていないらしい。
違う病気の患者からのドナーは、受け入れられるのだろうか。




ああ、暑いなあ。
もう八月も終わるのに、蝉の鳴き声は続いている。

微かに笑って窓の外を見つめた今宮透は、何かを決めたようにノートに鉛筆で書き込んだ。




9/1
彼女の妹が来た。
姉がお世話になったとして医者や看護師さん、隣である「僕」にも、姉からよく聞いていますと挨拶した。
彼女には親がいなかった。
妹さんは、彼女が助かることをほぼ諦めているようだ。苦しませるより、はやく安らかにしてあげたいと、泣いていたのを聞いてしまった。