そばにいたかったのは私の方

「行ってきまーす!」

四月、入学式を終え、今日から高校一年生の桜丘紅鈴愛(さくらおか くれあ)は、足取り軽く家を出た。
生真面目でおっとりした性格の紅鈴愛は、目立つということを全くせず、小学校中学校と地味に、空気存在のように過ごしてきた。
きっと高校でもそうなんだろうな、なんて考えながらの入学はいささか寂しい気もしたけれど。
それでも、静かに流れていく時が紅鈴愛は嫌いではなかった。











ところが。









ダダダダダダッ

(ヤバイ、ヤバイヤバイヤバイ)

紅鈴愛は全速力で学校へ向かっていた。
道の花をぼーっと眺めたり、出くわした猫と(一方的に)話したりしていたら、結構な時間が経ってしまったのだ。

やっと学校が見えてきた。
学校内に入っても、ガヤガヤという学校特有の騒がしさはなく、むしろ足音が大きく響くほどしーんとしている。
チャイムはもうとうの昔になったようで、どうやらどのクラスも授業に入ったようだった。

(完全に遅刻だ……)

登校一日目から遅刻。
靴を乱暴に脱いで下駄箱に突っ込み、二階の教室までの階段を駆け上がる。
すると……


"ドンッ"


「わぁっ!」

踊り場のところで、降りてきた相手と思い切りぶつかってしまった。

「すっすいませ…」

相手はかなり背の高い男子。
小柄な紅鈴愛は見上げながら謝る。

(あ、かっこいい…)

大急ぎで階段を上っていた紅鈴愛に対し、相手は急いでいる様子も無い。
こんな時間にここで何をしているのだろうという疑問が浮かぶが、その考えは飛んでしまった。
見上げた相手がかなりの美形だったから。
ぶつかった相手なのに、かっこいいだなんて第一印象を抱いていた。
ところが。

(……っえ?)

思わずその場で硬直。

なんと、相手はどす黒いオーラを漂わせ、長めの前髪の間から鋭い目つきでこちらを見ていた。

「……チッ」

…しかも舌打ち付き。

「あわわわわ、ごめんなさい…!」

紅鈴愛がバッと頭を下げるが、男子生徒は見事に無視して階段を降りていってしまった。

「……なんだったんだろう…」

しばらくその場に立ち尽くす。
あんなに嫌悪感を剥き出しにされたのは初めてだ。


「あっ!?」
(遅刻してたんだった…!)

さっきの異常なまでの黒いオーラと目付きのダメージそのままに、ダダダッと階段を駆け上がった。