本番を終えた私たちは、楽器置き場へと戻ってきた。


舞台裏やステージの緊張感とは違う、楽器置き場のガヤガヤした人混みを前にすると、ああ、終わってしまったんだ、と実感する。


最後の音を、外してしまった。


あの音に込めた思いは、届かなかった。


それどころか、足を引っ張ってしまうことになるなんて────


もう、あの音は戻ってこない。


ただ悔しさだけが、込み上げてくる。


「トランペット、とっても上手かったよ!」と、松本先輩が前田先輩に言っている。


私はその横で、涙を堪えながら黙々と楽器を片付ける。


「広野さん、お疲れ様!よく頑張ったね!」と、松本先輩はいつもと同じ優しい笑顔で私にも話しかけてきた。


「先輩……あの……ごめんなさい。

私……最後の音………っ……外して………っ…ひっく、………………しまって……」


口を開くと同時に、堪えていた涙が一気に溢れ出す。


「そんなことないよ!広野さんだって、めちゃくちゃ上手かったんだから!

あれだけ頑張ってたんだから、大丈夫だよ!ほら、元気出して!」


そう言って松本先輩は、私の顔を見ると、にっこりと優しく微笑んだ。


それは、私が今まで見てきた中でどんな瞬間よりも温かく心に染みる、優しい笑顔だった。


────あの時と同じだ。


先輩の傘を手にしたあの時と同じ、言葉にできない温かい感情が胸を染める。


「はい、先輩……っ………うわあぁぁーーーん…………」


松本先輩に思いもよらない優しい言葉をかけられて、悔しさの涙は一気に安堵の涙へと変わった。


楽器をトラックに積み込んだら、他校の演奏と結果発表を聴くため、ホールの客席に入る。


後は、最優秀賞を取れることを祈るだけだ。


どんなに後悔したって、もう、演奏は戻って来ないのだから。