そしてa tempo(元の速さで)からは、先ほどとはまた違ったメロディーが現れる。


様々な楽器が交代していきながら、メロディーを奏でて、徐々に音量を上げていく。


そして、全員が加わって、ひとつの大きなメロディーを作り上げる。


そこを過ぎると────曲が終盤に向かうことを思わせる、ほんの少し切ない曲調になる。


もうすぐ、曲が終わる。


このメンバーで奏でる音楽も、終わる。


大きくクレッシェンドしていく。


もう一度奏でる、最後のメインメロディーに向けて。


クレッシェンドの先には、フォルティッシモのついた4分音符がある。


これが、私とカリンが吹く部分の最後の音。


楽譜に書かれているその音符の上には、「ここから吹きまね」と書き込んである。


もうすぐ、最後の音だ。


しっかりと、思いを込めて。


フォルティッシモ、とても強く────







────ビャッ!!







────えっ……………!






目の前が真っ白になった。


一瞬、これは夢じゃないのかと疑った。


でも違う。現実だ。


その音が出た感触が、確かにこの唇に残っている。




嘘だ………



そんなの、嘘だ………





最後の最後の音を────




外してしまったなんて………………!




曲は最後へ向けて進んでいく。でも、それはもはや全く頭に入ってこない。


楽譜に書きこんだ「ここから吹きまね」の文字が、嘲笑うように主張している。


気がつけば、もう曲は終わっていた。


遠い世界で、観客席からの拍手が聞こえた気がした。