────私は松本先輩のことを誰よりも尊敬しているけれど、松本先輩は私のこと、どう思っているんだろう…………?
ふと、そんな考えが頭の中に浮かぶ。
ヘタクソな後輩?普通の後輩?それとも………………?
曲をワンフレーズ吹き終えたところで、もう一度トランペットを下ろす。
そして、ゆっくりと松本先輩のほうを見上げる。
松本先輩は周りには見向きもせず、一心不乱にトランペットを吹いている。
────最近、ずっとこんな感じだ。
松本先輩の近くにいると、そんな考えが無意識のうちに頭の片隅から湧いて出てきてしまう。
そんなのだめじゃん。惑わされるなんて。しっかりしてよ、自分。
そう無理やり自分自身に言い聞かせる。
だって、先輩は「先輩」なんだから。
そんなことを思いつつも、視線はまだ松本先輩の方を向いている。
松本先輩は、私にとって「完璧」と呼ぶに相応しい人物だ。
先輩は相変わらず一生懸命にトランペットを吹いている────あの明るく華やかな音で。
私にとっては、完璧すぎて────
うっかりすると、無意識のうちに生まれる感情の罠にはまってしまいそうになる。
────でも、いずれにせよ、私の中には、松本先輩に良く見られたい、認めてもらいたい、という思いがあるのは確かだ。
────「後輩」として。
誰よりも尊敬する先輩である松本先輩だからこそ、私はそれに相応しい後輩でいたい。それに相応しいしっかりした後輩として見てもらいたい。そういう思いなのだ。
────きっと。

