しばらく練習を続けていると、松本先輩からふいに名前を呼ばれた。


「広野さーん、僕たちだけじゃ寂しいでしょ、良かったら2人でパート練でも…」


だが、私がその声に振り向き、松本先輩の所に向かっていこうとした瞬間、先輩は「あ、いや、やっぱなんでもないや。その、自主練だから、帰りたいときにいつでも帰れるほうがいいかなって」と言いながら、視線を逸らしてしまった。


「えー、私はパート練したいですよー」


私がそう言うと、先輩は窓の外の方を向いたまま、「えっ、いや別に無理しないでいいけど…」と、少し慌てたような口調で言う。


「私は松本先輩と練習したいんですよー!コンクールが終わったらもう二度と一緒に演奏できないじゃないですか」

「じゃあ、えっと、5分後に始めるから、準備してて…」

「わかりました」


私と話をする間、松本先輩はずっと窓の外の方を見たまま、私の方を向こうとしない。


いつもは私の方をちゃんと見て話してくれるのに、なんだか不自然だ。


「あの…先輩、さっきから変ですよ?なんで、窓の外ばっかり見てるんですか?」

「いや、これ、言っていいのか分かんないけど……」

「…………?」

「いや、僕から言うのもセクハラみたいで、あれなんだけど……その、悪く思わないでくれる?」

「なんでしょうか?」


すると、松本先輩は一瞬ちらっと私の方を見た後、すぐに目を逸らして、顔を赤くして言った。


「広野さん、その、ブラウス……………めっちゃ濡れて、透けてるから……………こっち向けない………」

「えっ!!!!」


私は慌てて自分の制服のブラウスを見る。確かに、雨で濡れた白いブラウスが透けて、キャミソールの色が見えてしまっている。なんて格好だ。


「わ、わ、ごめんなさい!見苦しいものをお見せしてすみませんっ!すぐどうにかしますんで!!!」


私は慌てて先輩のもとを離れた。