メトロノームと睨めっこしながら練習していると、隣で練習していたカリンが駆け寄ってきた。
「ねえー、志帆ー、ここんとこ分かんないよー、教えて~」
そう言ってカリンは、私の楽譜のある部分を指差す。
「そこは………」
後半部分で最も難しいフレーズ。音の跳躍が激しい上に運指も難しく、私も悪戦苦闘している所だ。
「どう、志帆、わかるー?」
「んーー……私もここは難しくてなかなかできないんだよねー」
そう言ってから試しにそのフレーズを吹いてみる。
しかし、途中の臨時記号のシャープのところで運指も音程も訳が分からなくなり、止まってしまった。
「だめだ、カリン、ここは私にもできないよ」
「え~、志帆に聞いてもダメなら、カリンどうすればいいの~?」
「カリンには山内先輩がいるでしょ〜」
「えー、お兄ちゃんは楽器違うからだめだって〜」
「なら、松本先輩かアカリ先輩に教えてもらおうよ」
「そっか!そうだね!そうしよう!カリン、アカリ先輩に聞いてくる!」
「えっと、じゃあ、私、松本先輩に教えてもらう………って、カリン、後ろ!」
「わっっ!!」
「うわあぁっっ!」
カリンの「アカリ先輩に聞いてくる」という声を聞いて、前田先輩は早速カリンに近づき、後ろから驚かせたのだ。
「えっへへーん、大成功~!」
「アカリせんぱぁーい!不意打ちはずるいですよぉ~!」
「じゃ、カリンちゃん、レッスンに連行しまぁーす」
そしてアカリ先輩とカリンは、早速一緒に練習を始めた。
アカリ先輩とカリンは、まるで昔から友達だったかのように仲が良い。
あれからもずっと、先輩と1年生で一対一で教えてもらう時はいつも、私と松本先輩、カリンとアカリ先輩という組み合わせだった。
だからカリンは私よりもずっと、アカリ先輩と一緒にいる時間が長い。
それに、天然で癒し系でいじられキャラのカリンと、おしゃべりで積極的でいじりキャラのアカリ先輩の性格が見事にマッチして、すっかり仲良くなっている。
それに比べたら私とアカリ先輩が話す機会はずっと少ない。話すときも、よそよそしい感じだ。

