次は、自由曲の『じんじん』だ。
課題曲がこれまで共に歩んできた夏の青空なら、この曲はこれから進む未知への挑戦だろう。
これまで私たちに馴染みのなかった海。
修学旅行で見た風景を頼りに、私たちの想像する海を、この音で描き上げる。
────曲は静かに始まる。
水平線から日が昇るように、ユーフォがそっと主旋律を奏でる。
そして、テンポは一転し、力強くはっきりした音が響き渡る。
照りつける眩しい日差し。水面に反射する光。青々と茂る木々。彩やかな色の花たち。
色とりどりの景色を、一つ一つの音に乗せて。
やがて、場面は移り変わり、静かな中間部へと入る。
フルートの澄んだ音色に、そっとバリトンサックスが寄り添う。
やがてオーボエや他の木管楽器も加わり、静かな空間の中でそれぞれの音が絡み合う。
別々に動いていた音はやがて一つになり、優しく歌うように、静かに響く。
そして、主旋律はトランペットへと移る。
私たちを包み込むような壮大な海を、この雄大な音で描きながら。
曇りのない音と、澄んだ空と海の青が重なる。
そして、再び場面は移り変わって────
今度は踊り出したくなるような賑やかな音楽だ。
寄せては引く波のように、強弱を繰り返しながら新たな主題へと繋いでいく。
そして、明るく楽しい主旋律の後、束の間の静寂が訪れ、冒頭と同じ主題が優しく奏でられる。
────もうすぐ、この曲も終わりだ。
どこか切なくもあるこの場面で、私は夕焼けの空を思い浮かべる。
そして、アラルガンドの後に、再び全員で明るく、そして壮大なメロディーを奏でる。
私たちの奏でる風景。どこまでも広がる、輝く海。
それが今、まるで目の前にあるように、それぞれの音が輝いて、一つの景色を作り上げる。
そして、最後はしっかりと力強く、そして明るく、メロディーを奏でる。
難しいリズムの部分も完璧だ。
いよいよ、最後の音だ────
────タタタタタタ、タンッ!
それぞれの奏でる音が、ひとつになる。
一瞬の余韻に、最後の和音が重なる。
寺沢先生の合図でその音が止まると、私たちは一斉に立ち上がる。
堂々と胸を張って、笑顔で。
────終わった…………!
降り注ぐ観客の拍手に、私はこれまでにない満足感を覚えた。
こんなにも素晴らしい演奏が、私たちにできるなんて。
今までで一番の、最高の演奏だったと、自分でも言えるほどに、満足していた。
拍手が鳴り止まないうちに、客席の真ん中近くにいた高校生の先輩たちの集団が、物凄い勢いでホールの外へと出て行くのが見えた。
『────J中学校の演奏でした』
アナウンスの声とともにステージの照明が暗くなると、私たちはステージを降りて行く。

