あの夏の続きを、今



そのまま二人並んでゆっくりと歩くうちに、私たちは坂道の中腹辺りまで来ていた。


もう半分進めば、分かれ道まで来てしまう。


そこまで辿り着いたら────言うんだ。ちゃんと。


「広野さんが思うほど、僕は素晴らしいトランペッターなんかじゃなかった。僕はただ、目標とする人の音を目指してただけだよ」


先輩はそう言うと、遠くを見つめるようにして話し始める。


「広野さんには、確か言ってなかったよね。広野さんたちの代が入ってくる前の年まで、中学のトランペットパートには、もう一人、僕と同級生の女の子がいたんだ」

「そうだったんですか!?初めて聞きました」


私がそう言っても私のほうには向き直らないまま、先輩は続ける。


「その人は親がプロのトランペット奏者で、影響を受けて小学生の頃からトランペットやってたとかいう、とにかくすごい人でね。

ただ楽器が上手いだけじゃなくて、指導も上手でね。僕たちが1年生の時、吹部は今よりずっと人数少なかったし、出席率も悪かったから、あまり先輩に教えてもらうこともできなくて。そんな中で、その子は僕に毎日毎日、トランペットを教えてくれたんだ」


ゆっくりと歩きながらそう語る先輩の口角がほんの少し上がっているのに、私は気づいていた。


「僕はいつかその子みたいに上手くなりたいって思って、ずっと頑張ってたんだけどね。でも僕が2年生の時、先輩たちが引退してすぐ、その子は転校してしまったんだ。

それで、トランペットパートは僕と前田さんの二人だけになってしまって。でも僕は今までずっとその子に頼りっぱなしだったし、前田さんへの指導もずっとその子がやってたから、僕は先輩としてどうしたらいいか分からなくて。そんな中で初めて一から教えたのが、広野さんたちの代だったんだ」


そこまで言って、初めて先輩は私の方に向き直った。


二人の分かれ道は、もうすぐそこまで来ていた。