あの夏の続きを、今



やがて、私の後ろに続いて、たくさんの人たちが坂道を登ってきて、私を追い抜き始めた。


さっきの電車から降りて来た人たちだろう。


────果たして、松本先輩はいるのだろうか。


気になったけれど、私は振り向かなかった。


今は、自分から先輩の姿を探しに行ってはいけない気がした。


もしも先輩が何も言わず私を追い抜いていってしまったら────それが答えなんだと、そう思うことにしよう、と考えていた。


ここで、全てが終わってしまう運命なんだと。


だが────




「広野さん!」




後ろから近づく足音。


何度も聞いた、温かい声。



振り向くと、そこには────




「広野さん、今日はお疲れ様!また会ったね」




もう二度と見ることは叶わないかもしれない、私の大切な人の姿が、そこにはあった。


「松本先輩……!」



先輩の方から声をかけられたのは、先輩が引退してから、初めてのことだった。



────ようやく、この時が来たんだ。



この坂道を、分かれ道の所まで登りきったら、先輩に告白するんだ。



そんな私の決意に気づいているのかいないのか分からないが、先輩はいつものように、私の隣に並んで普通に話し始める。


「今日、多分今の先生になってから初めて演奏聴いたんだけど、本当に凄かったよ。ただ演奏技術が上手いだけじゃない。皆それぞれの音の魅力が活きているっていうか」

「本当ですか!?」

「うん。それから、広野さんのソロもね。まるで、強い意志がこもっているみたいだった。あの頃の僕だったら、あんな音出せてないと思うよ」

「そんな……私はただ、先輩みたいに誰かを惹き付けるような音が出せたらって思って、練習してきただけですよ。高い音だって、まだ全然、先輩みたいには出せないですし」

私がそう言うと、先輩は一瞬、驚いた顔をした。


「えっ、そんな、僕は本当は、高い音は苦手なんだけどね」

「ええっ、そうだったんですか!?」


今度は私の方が驚いてしまう。


「僕はただ、広野さんたちが入ってくる前のトランペットパートが僕と前田さんの二人だけだったから、絶対に足を引っ張るわけにはいかないと思ってやってただけだよ。

────後輩たちの成長が思いの外凄かったから、余計に負けてられない、って思ったりもしたし」

「そ、そうだったんですか……」