しばらくして、寺沢先生が音楽室に戻ってきたので、部員たちは一旦席に着く。


けれど、願ってもいなかった奇跡を目の当たりにし、私の胸はまだ高鳴っていた。


前に立った寺沢先生が、高校生の先輩たちに向かって、「君たちは皆、OBかな?せっかくだから、前に出てきて、どうぞ」と言うので、先輩たちは皆、前の方に一列に並ぶ。


そして、シオリ先輩が話し始める。


「こんにちは。2、3年生には知ってる人もいると思いますが、私たちはJ中学校吹奏楽部のOBOGです。

今日は、皆さんのコンクール県大会の前日ということで、皆で後輩たちを応援しよう!ということで、お邪魔させてもらいました!

あと、ささやかながら差し入れもあるんで、また後で取りにきてください!」


そして、先輩たちはまた音楽室の隅の方へと戻っていく。


再び前に出てきた寺沢先生が、「じゃあ、せっかく来て頂いたから、一回本番通りに通してやってみよう」と言う。


───夢のようだ。


松本先輩に、もう一度私の音を聴いてもらいたい。


私の成長した姿を見せたい。


その願いが、今ここで叶うなんて。



部員たちはすぐに静かになり、寺沢先生が指揮台に登る。


────一気に、緊張感が走る。


先生が、指揮棒を構えた。


それに合わせ、私たちも楽器をしっかりと構える。


────私の音を、届けるんだ。