────個人練習、パート練習、合奏。


県大会本番まで1週間となった今、もう一分一秒たりとも練習時間を無駄にはできない。



けれど、結局今日も良い音は出ないまま、一日の練習が終わってしまった。


────沈んだ気持ちも、元には戻らないまま。


楽器を片付けながら、私は考える。


少なくとも、地区大会以前は、完璧ではないとはいえ今よりもずっといい音が出ていたんだし、進路も恋も、これからどうするか、はっきりとした意思があった。


けれど、今、それらは全て失われて、見えなくなってしまった。


私がこれからどうしていきたいのかも、分からない。


私がセイジのことをどう思っているのか、これからどうするべきなのかも分からない。


私が本当に松本先輩のことを好きなのかさえも、分からない。


────前も後ろも見えない。何もかも分からない。


どうすれば、前みたいに明るかった日々に戻れるんだろう。


どうすれば、前みたいな音を取り戻せるんだろう。


そう考えながら、私は楽器ケースの蓋を閉じる。


音楽室の窓から見える空。その向こうから、どんよりとした分厚い黒雲がこちらに迫ってきていた。


「うわ、あの雲すごくない?」

「夕立、来そうだね」

「やば、早く帰らなきゃ、濡れちゃう!」


そう口々に言いながら、慌てて楽器を片付ける部員たち。


私も、急いで帰ることにした。