やがて、セイジの家の前に着いた。


私の家は、この道をさらに少し進んで、交差点を曲がった先だ。


「じゃ、セイジ、今日は────」


私がそう言って帰ろうとすると、セイジは「いや、志帆の家まで送ってくよ?」と言う。


「え、でもすぐそこだし、いいのに」と言ったが、セイジの真剣な顔を見ていると、なぜだか断れなくなってしまった。


結局、私はセイジと一緒に、家の前までやって来てしまった。


────なんだか、気を遣わせてるみたいで、変な感じだ。


前は、セイジがこんな風に優しさを見せることなんて、絶対になかったのに。



家の前まで着くのはあっという間だった。私は屋根の下に自転車を停めると、「じゃあね」と言いつつ家の鍵を取り出し、玄関の扉に向かう。


だが、「ちょっと待てよ」という声に呼び止められた。


「まあ、もうちょっと話していかない?」と言うセイジの声に、私は違和感を感じつつも道路の方に戻る。


なんだろう。この胸の奥に突き刺さる痛みのような気持ちは。


セイジと一緒にいることも、セイジと話すことも、私にとっては普通のことのはず。


なのにどうして、今はこんなにも苦しいんだろう。


「で、何?」と私が言うと、セイジは「あのさ、聞いて欲しいんだけど」と真剣な声で答える。


なんだか目を合わせるのが怖くて、私はずっと、セイジの肩越しに見える道の向こうをぼんやりと見ていた。


「志帆…」


名前を呼ばれた瞬間、動いた目線が思わず合ってしまう。





その直後────






「俺、志帆のことが、好きなんだ。幼なじみなんかじゃなく、一人の女として。……だから、付き合って欲しい」






セイジの口から唐突に飛び出したその言葉に、私は唖然とした。


訳もわからず、固まったままの私を置いてけぼりにしたまま、セイジは続ける。


「その…別に今すぐ答えてとは言わないからさ、新学期始まってからでいいから、返事、聞かせてよ」


そう言うとセイジは、私が何か言う間もなく、自転車に乗って曲がり角の向こうに消えてしまった。


あまりに突然の出来事に、私はしばらく固まったまま、動くことができずにいた。