それから私は、左右から聴こえてくる2年生たちの個人練習の音に耳を澄ませる。
1stのアズサちゃん、2ndのエリカちゃん、3rdのユイちゃん。
完璧と言うにはまだ少し足りない部分もあるけれど、それでも3人とも、それぞれの音の長所が活きた演奏になってきている。
後輩たちが日に日に成長していくのを実感して、なんだか嬉しくなる。
と、その時、隣にいるユイちゃんが吹いていたフレーズに、私の耳がぴくんっ、と反応した。
「ユイちゃん……そこは違うよ」
私は思わずユイちゃんに話しかけていた。
ユイちゃんがはっとマウスピースを口から離して私の方を見る。
「そこは、メゾフォルテからフォルテへ、クレッシェンドしていく所だから、最後の音が一番強くなってないとだめなの。太くたっぷりと息を入れるイメージで吹くと、低い音でも綺麗に大きな音が出せるよ」
「先輩、ありがとうございます」
ユイちゃんがまた同じフレーズを吹き始ると、私も練習を再開する。
こんな風に、日々後輩に様々な指導をしているけれど、私は果たして本当に良い先輩になれているのだろうか。
2年前、松本先輩が担っていた役目。それを今は、私とカリンが背負っている。
私はちゃんとその役目を果たせているのだろうか。
松本先輩のように信頼される先輩に、私はなれているのだろうか。
後輩たちにとっての「松本先輩」のような存在に、私はなれているのだろうか。

