やがて、開演の時間になった。


明るくなったステージに現れたのは、テレビで何度も見たことのあるユニフォームに身を包んだ、たくさんの部員たち。


100人を軽く越えるその人数でステージが埋め尽くされるその光景に、既に圧倒されてしまう。


そして、指揮台に登った木村先生の持つ指揮棒が振り下ろされると同時に、輝かしいファンファーレが響く。


────すごい!!


その音はまるで太陽の光のように、明るく、まっすぐに、私たちの胸に届く。


たくさんの部員たちが奏でる1つ1つの音がエネルギーを持って、私の全身を奮わせる。


耳だけでない。心だけでもない。頭のてっぺんから足の先に至るまで、透き通った音の響きが染み渡っていく。


テレビで聴いたのとは違う、生で聴くからこそ感じる音の素晴らしさ。



これが、全国金賞の音────!!!



私は瞬きをするのも忘れてステージに見入っていた。


今まで聴いた中で一番素晴らしくて、一番輝かしくて、一番透き通っていて、一番力強い音。


これが、浜百合高校吹奏楽部なんだ。


私も、この中の一員になれたら────


私も、この音を奏でられたら────



どんなに素晴らしいことだろう。


どんなに誇れることだろう。


きっと、こんな演奏ができれば、松本先輩の心に響くような演奏ができるに違いない。


先輩に誇れるトランペッターになれるに違いない。


浜百合高校に入れたら。


全国大会に出られたら。


遥か遠くにある夢にも、手が届きそうな気がする────





────私、ここに入りたい。


────浜百合高校吹奏楽部に、入りたい。





そんな思いが、どんどん強くなっていく。



────だけど。



曲が終わると同時に、私はそっと目を閉じる。


浜百合高校に行ってしまえば、先輩とまた会う夢、再び一緒に演奏する夢は、もう二度と叶わないだろう。


時折交わした何気ない会話も、練習の時に教えてくれたアドバイスも、一人で練習に打ち込む姿も、もう戻ってはこない。


だからといって、浜百合高校で叶えられる夢、人生でたった一度のチャンスを簡単に手放してしまう勇気も私にはない。


────どうすればいいんだろう。


────私は、どうすればいいんだろう。