しばらく他愛もないことを話しながら進んでいって、交差点を曲がり、住宅地へと続く上り坂へと入る。


自転車を押して歩きながら、ゆっくりと上っていく。


弾んだ呼吸もようやく整ってきたので、私からも話題を振る。


「そういえば…私たち、今年、コンクールはA部門に出ることにしたんですよ。いろいろ話し合って決めました」

「えー!?A部門!?すごい!やるじゃん!…じゃあ、課題曲もやるんだ!」


普段は聞くことのできない、松本先輩の落ち着いた声がすぐ側で聞こえることに嬉しくなりながら、私は話を続ける。


「はい!今日、ちょうど課題曲と自由曲も決まったんです。課題曲が1番、自由曲が『じんじん』です」

「お、『じんじん』って知ってる!確か、去年どっかの学校が自由曲でやってて、いいな〜って思ったんだよね」

「そうなんですか……じゃあ、私、その学校の演奏よりももっと先輩の……いや、みんなのハートをつかめる演奏ができるように頑張らないとですね!」

「広野さんたちなら、楽勝に決まってるよ!…そういえば、今、パートリーダーはどっちがやってるの?」

「カリンがパートリーダーです。アカリ先輩が決めました」

「そっかー」

「今、私、1stはあまりやってなくて、2ndを中心にやってます。アカリ先輩に、低い音の方が向いてるって言われたんで」

「えーっ、なんか、意外な方向に進んでるね……僕は、広野さんと山内さんだったら、絶対広野さんのほうがパートリーダーになるだろうなって思ってた」