信号が青に変わったので、私と先輩はふたり並んで歩道を進んでいく。


かなり強引に来てしまったとはいえ、少しでも先輩と一緒に帰れるなんて────夢みたいだ。


夕焼け色に染まっているのは、辺り一帯の景色だけではない。────松本先輩の横顔もだ。


温かな色の夕陽に照らされる松本先輩────それがあまりにも綺麗で、私は思わず見とれてしまう。


「やっぱり、元強豪校の顧問の練習は、厳しいのかな?」という松本先輩の質問に、「そうですね、西島先生の時に比べたらすっごく厳しいですけど、自分たちの成長が実感できるのは嬉しいですね」と答えた。


それから、私と先輩はお互いの部活のことを話しながら、夕焼け色の景色の中を進んでいった。


途中で交差点を曲がり、住宅街に続く坂道を、自転車をゆっくり押して上っていく。


この時間が永遠に続けばいいのに。


この道が永遠に続けばいいのに。


ずっと、先輩の声を聞いていたい。


ずっと、先輩の隣にいたい────


もちろん、それは叶わぬ願い。


すぐに、私と先輩の帰る方向が分かれる交差点まで来てしまった。


「それじゃ、コンクール、頑張ってな!じゃあね!」と笑顔で言って、松本先輩は自転車にまたがる。


「ありがとうございます!先輩も頑張ってください!」


私がそう言うと、松本先輩は手を振ってから、交差点をまっすぐ進んでいった。


松本先輩の背中が完全に見えなくなるまで、去っていくその姿を見届けてから、私は交差点を左に曲がり、坂道を一生懸命上っていく。


こんな時に、こんな所で、先輩に会えるなんて、本当に奇跡みたいだ。


────ほんの少しでも、先輩と話せて、本当に嬉しかったです………


私は喜びをしっかりと胸にしまって、弾んだ気持ちで坂道を駆け上がる。


ここでこうやって先輩に会えるのなら、チャンスは意外とたくさんあるのかもしれない。


私が中学生のうちに、松本先輩に想いを伝えることも、夢ではないかもしれない。


そんなことを考えながら、私は家を目指してひたすら坂道を登っていった。