練習時間が終わり、音楽室に戻って楽器を片付ける。


「志帆、今日どうだった?」と、隣で片付けをしているカリンが話しかけてきた。


「んー、最初はすっごく緊張したけど、でも、進めていくうちになんか、私も先輩なんだなって自覚して……案外、楽しかったかも。後輩とも少し仲良くなれたし。カリンはどうだった?」

「もう、なんかめっっちゃ怖かった!!まず、1対1ってだけで、もうカリン無理ー!」

「でも、1stができるだけで、すっごく良いと思うよ?私、カリンが羨ましい」

「えぇー!?そんなー……カリンだって、一人で何でもできちゃう志帆が羨ましい!」

「一人でできる、っていうよりは、先輩にほっとかれてる、って言ったほうが正しいよ」

「えー、違うよぉー、カリンがヘタクソだからあんな集中レッスン受けることになるんだもん〜」


そんなことを話しながら、楽器をしまったケースを音楽室の隣の準備室に持っていく。


私とカリンが準備室に入った時には、ちょうどそこには他の人はいなくて、皆のメトロノームがカチカチカチカチとやかましく鳴り続けているだけだった。


「ねえねえ、志帆が羨ましいで思い出したんだけど」


楽器ケースを棚にしまいながら、カリンが話しかける。


「志帆って、あれからずっと、恋してないのー?」


────ずきん。


私の胸が、痛んだ。


私よりも少し背が低いカリンは、棚の上の方の段に楽器ケースをしまおうとするのに必死になっていて、私の方は見ていない。


「カリン、最初、志帆がモテそうな雰囲気してて、ずっと羨ましいなーって思ってて。瀬川くんの件はあれだったけど、志帆はまた新しい恋するのかなーって思ってて。

だから、志帆がどんな恋するのか、ちょっと気になってるの!」


そう言うカリンの声は、一点の曇りもない純粋な響きをしていて、他意は全くないというのは聞いただけで分かる。


────けれど、それでも私は、胸が苦しくなる。