それから、ロングトーン、スケール練習、そしてコンクールまでの特別練習の民謡音階。
アカリ先輩もカリンもいない状況では、「○○をします」と言うだけでも、とても緊張する。
とりあえず、今まで先輩たちがしていたように、アドバイスを出さないと。
「えーと…アズサちゃんは、ピッチは合っているけど、少し音の伸びが弱いから、もう少し腹式呼吸を意識して、しっかり息を入れてね」
「はいっ」と、アズサちゃんが返事をしてうなずく。それを見て、ああ、私も「先輩」なんだな、と改めて実感する。
「ユイちゃんは、高い音になるほどピッチが下がりやすくなるから、高い音を吹く時に、チューナーを意識して見てみて」
「はいっ」
「エリカちゃんは、力みすぎてる感じがするから、あまり力を入れすぎないようにして吹いてみてね」
「はいっ」
「じゃあ、『せんばやま変奏曲』始めよっか。じゃあ……まずは、最初から、6小節目まで行きます」
「「「はいっ」」」
私はメトロノームのテンポを120に合わせ、「いち、にっ」とカウントを出す。
2小節目までは順調だ。だが、3小節目からの3連符が並んでいるところで、どうしても4人の音が噛み合わず、ずれてしまう。
「もう少しゆっくりのテンポで行こうか」
「「「はいっ」」」
私はメトロノームのテンポを108にして、もう一度4人で最初の6小節を吹く。
だが、やはり、3連符が合わない。ここは、私がどうにかして、合わせられるようにしないと。
「前に寺沢先生が言ってたんだけど、ここの3連符はとにかく1拍目を揃えることを意識しないと出来ないんだって。だから、えーっと…ここ、まず、ここの音符が3小節目の1拍目の音でしょ?で、ここの音が2拍目の頭。ここが3拍目の頭」
私は楽譜を指差して1年生たちに見せながら説明する。
「ここの、拍の頭の3つの音を、常にメトロノームや指揮に合わせることを意識して。最初は拍の頭の音だけ、若干アクセント気味にすると合わせやすいかも」

