あの夏の続きを、今



しばらくして、遠くの方から、チューニングのB♭の音が聞こえ始めた。


時計を見ると、5時10分。


もう、パート練習の時間だ。


────松本先輩は、今どうしているだろう。


────先輩も、今頃はユーフォを吹いているのかな。



「カーリン、レッスンの時間だよーっ!」というアカリ先輩の声と、「いやですーーー!怖いですーーーー!」というカリンの声が遠くから聞こえてくる。


あの2人は本当に仲が良くて、羨ましくなる。


カリンはすごくアカリ先輩に気に入られていると思う。


それに比べて私は────


アカリ先輩は、部活の中での用事以外で私に話しかけてくることはほとんどなかった。


アカリ先輩とは、未だに、壁で隔てられているような、そんな感じがする。


どうすれば私、カリンみたいにアカリ先輩に気に入られるのかな、と時々思う。


どうしてアカリ先輩は、私にはよそよそしいのかな、と思う。


私はアカリ先輩に嫌われてるんじゃないか、という疑念さえ抱いたこともある。


────決してそんなことはないと思いたいけど。


でも、なんだか私は、アカリ先輩とは話しにくい気がする、というのは事実だ。


────なんて、気にしてる暇はない。


今はとにかく、パート練習の時間だ。


私一人で、3人の後輩を相手に、練習を仕切らなければいけないんだ。


……緊張する。


「トランペットの1年生、こっちに集まってー!」


私は1年生たちを呼ぶと、メトロノームをセットしてから、4人で円を作った。


いつも、松本先輩やアカリ先輩が進めていたように、パート練習を進めていかないと。


大丈夫。やればできるはず。


私は深呼吸してから、私を見つめている後輩たちに向かって言う。


「じゃあ、チューニングをします」

「「「はいっ」」」

「1、2、3っ」


4拍目で、全員がすうっ、と息を吸う音がして、次の1拍目で全員の音が響いた。


1年生の出す音はまだまだ拙いけれど、最初の頃に比べたら少しずつ良くなってきている。