ぱぁぁぁーーーーーーん。


チューニングの音が、いつもの体育館横に響く。


すぐ近くにあるプールからは塩素の匂いが漂ってきて、ああ、今年も夏がやって来たんだな、と実感する。


ロングトーンをしながら、私は「せんばやま変奏曲」の2ndの楽譜を見つめ、自分に与えられたこの役割の意味を、じっくりと考える。


アカリ先輩は、「上手い方を2ndにする」と言っていた。


この曲は少し特殊で、1stよりも2ndの方が主旋律を吹く部分が多く、2ndの方が重要な部分も多い。


3人の1年生は、私と同じ2ndを吹くが、去年と同じように、1年生は指定された一部分だけを吹くことになっている。


1年生が吹く部分は、今年は先輩ではなく寺沢先生から指定されているけれど、その量は去年よりもずっと少ない。


だから、曲のほとんどの部分、特に難しい部分では、2ndを吹いているのは私だけになる。


そして、2ndの私はこれから、アカリ先輩がいない状態で1年生3人の面倒を見なければいけなくなる。


この曲、そして今年のコンクールでは、2ndの私も1stと同じくらい、いや、もしかしたらそれ以上かもしれない、かなりの重い責任がある。


「先輩」としての役割を背負うことには憧れていたから、この役割は私にとっては十分過ぎるほど良いものなのだ。


────でも…………


やっぱり、私の中には、内心複雑な思いが依然としてあった。


正直に言えば────本当は、1stがやりたい、という気持ちのほうが、若干大きかったのだ。


松本先輩みたいに、華やかで目立つ高音でみんなをリードしたい────そんな思いがあったから、たとえ主旋律は2ndより少なくても、1stの高音の方を吹いてみたかった、そんな思いがあったのだ。


1stを吹くことで、憧れの松本先輩の音に少しでも近づける────そう思っているのだ。


そのために、ハイトーンの練習もしてきた。


だけど、私は2ndになった────


複雑な思いが、私の中を駆け巡る。