坂道の中腹辺りで自転車を漕ぐのがきつくなってきて、自転車から降り、押して歩き出す。


「よっ、志帆」


後ろから聞こえてきた声に振り返ると────


「なんだ、セイジか」

「なんだってなんだよ」

「いや、急に後ろから名前呼ばれたら、誰!?ってなるでしょ?」

「そんなの知るかよ。ところでお前、どうして落ち込んでるの?」

「え??は???べ、別に落ち込んでなんかないけど!?」

「嘘つけ」

「ち、違うもん!私はこんなに元気だもーん!!!」
話しながら坂道を上っていくと、やがて少し傾斜が緩やかな所に出る。


セイジは「じゃあな、お先に」と言って自転車にまたがる。


セイジの自転車はほんの少し進んだところで、また急に止まって、私のほうを振り返った。


「何があったのか知らんけど、あんまり暗い顔すんなよー。こっちだって悲しくなるだろ!」

「もう、何よーーー!」


そう叫んだけれど、再び坂道を猛スピードで上り始めたセイジは、こちらの言葉にはもう反応しなかった。


「まったく、セイジってイイヤツなのかそうじゃないのか、わけわかんない…」


そう独り呟きながら、取り残された私は坂道をゆっくり歩いて上っていった。


途中で道を曲がったところにガードレールがある。ここからはこの丘の麓の景色がよく見える。


────リサも、カリンも、サラも、それからなんだかんだ言ってセイジも、みんな、私を励ましてくれている。


立ち直らないといけないな。


明るくならないといけないな。


遥か遠くの景色をぼんやり眺めながら、そんなことを考えた。


なんだかここから動きたくなくて、だいぶ長いこと立ち止まっていたけれど、やがて私はまた家の方向へと歩き始めた。