彼と暮らし始めて早二ヶ月が経とうとしている。

どうやら彼は

この家から離れることは出来ないようで

離れると消えてしまう、

…と思うらしい。




テレビでは海だのプールだの

まだ6月だというのに

世間は騒ぎ始めていた。

彼はテレビを見つめ口を開く。

「海…って漢字、僕の名前にあった気がします」

「…海斗とか?」

彼はポロポロと泣き始めた。

「え、どうしたの…」

私はどうしたらいいのかも分からず

ただ隣でオロオロしているだけだった。

「…“海斗”だと思います。名前って…こんなにあったかいものなんですねっ」

涙でぐちゃぐちゃなくせに

はにかむ彼を私は愛おしいとさえ思った。



触れられない彼の手を握る。

「ちょ、真凛さん!?」

「…これは約束破ったことになる?」

なんとなく彼の隣は心地よくて

側にいて欲しいと思うようになっていた。

「…そんなのずるいですよ、」

彼は頬を紅く染め、涙を拭いながら

感じられないはずの私の手を握り返しているように思えた。