【 side 晃佑 】








「いててて……痛てぇ!!」


「あのさ、動かないでくんない? やりにくいんだけど」








頬の切れているところから、消毒液がじわじわと染みてくる。


涙がうっすらと出てくるくらいには痛い。








「……あのなぁ!
 もう少し優しくできないのか!?」


「お兄ちゃんが暴れなきゃもう少し優しくできるのに」








"はい、ガーゼ"と言って、ため息混じりにおれの顔へ乱暴にガーゼを貼り付ける。


どうにかならないのか、この妹は。




……痛い。








____この頬の傷はというと、何日か前にひかりが不良に絡まれていて、それを助けた時に殴られた痕だ。




ひかりが北原高校のあいつらに連れてかれるなんてことに比べたらこんな傷、痛くもかゆくもない。




……ホントは痛いっちゃ痛いんだけど。








「お兄ちゃんもやるよね、ひかりちゃん助けちゃうんだから」


「あ、やっぱそう思う?」


「訂正訂正、" たまには "ね」


「……おーい」








そう言うと妹は、おもむろにおれの机に無造作に置いてあったグローブとボールを手に取った。






……ちなみにおれとは2つ違いで、名前は萌依( モエ )という。


中2に上がったばかりではあるが、ソフト部での成績がすごいらしく、今からエース候補だそうで。






あー、すごいすごい。








「彼氏、いないの?」


「え、おれ? おれ彼氏持つ趣味は……」


「ちーがーう! ひかりちゃん!」








なんだ、ひかりのことか。


一瞬おれの事かと思ってびっくりしたのに。
まあ、彼女なんかいないんだけどサ。






……ひかりかあ、








「ん、いないだろ」


「へえ、もったいなぁ」








ふーん、と言って指先で器用にボールを回す萌依。




おれ的にも、いて欲しくないって思いは少しある。


やっぱ、幼なじみだからだろうな。








………………………………








「…………よっしゃ! 萌依、キャッチボールしようぜ」


「……はいはい」








萌依は苦笑いしつつも、そう言うと嬉しそうに部屋から飛び出て行った。