あたしの話なんて、彼らは聞かないかもしれない。

耳すら、傾けてくれないかもしれない。

それでも彼らが立ち止まったら、交わるものもすれ違う。

それだけは、どうしても避けたい。

だから無駄だとしても、ジッとなんてしていられなかった。


__ガチャ__


いつもとは違う、静かな店内。

乱れた息を整えながら、ゆっくりと中へと進む。


「いらっしゃい、蓮見ちゃん」


カウンターの中から、タクが声を掛ける。

タクの言葉に、そこにいた人間が一斉にこっちを見る。

その中にいた、場違いな女がこちらを睨み付ける。


「今日は、嫌味の一つも言わないんですね」


言わないのか、言えないのか。

そんなこと、正直今はどうでもいい。