ましてユリアは王立医学院を卒業しているわけでもなく、下町出身の平凡な医者の娘。
地位や肩書などとは程遠い存在だ。

「元王立治療院 医官長 ファルカスの娘」ということはわかったけれど、何か大きな実績があるわけでもない。
医学・薬学界では無名な存在だ。

万が一にも失敗すれば、自分の存在などあっという間に消されて、なくなってしまう。
それに、成功する保障があるわけでもない。

でも、現実に起きていることをほっておくなんて出来ない・・・。


・・・結局王宮に行くと言ってしまった訳だけど、

時間がたつにつれ、思わず勢いで言ってしまったんじゃないか・・と後悔の念も沸いては消えてを繰り返す。

それでも、周囲の人たちの事も気になるし・・・。
頼まれていたことも片付けないといけないし・・・。

いつここに戻ってこれるかもわからない。

ユリアは最低限の準備と頼まれていたことをそそくさと済ませると、
まだ明かりのついている酒場へ行き、マスターにしばらく町を離れることを伝えた。

そしていくつかの事を頼み、クラウス用意した馬車に乗り込んだ。


使い込んだ薬学辞典と医学書、父が残してくれた数冊の『研究ノート』、薬剤の調合レシピ。

あまり時間がなかったので、多くのものは持っていけなかったけれど、
治療に必要な最低限のものを持ち込んで、二人は王宮へ向け出発した。