結婚適齢期症候群

「でも、安心して。オーストリアでも言ったけど、俺は君と違って結婚には全く興味ないし、今は誰にも興味ないから。」

ショウヘイは、さらっと私の頭の上で言った。

オーストリアの時は腹が立った言葉だったのに、今は信じられないくらいにその言葉は堪えた。

最初からわかってたはずなんだけど。

やっぱりはっきり面と面向かって言われたら傷つくわけで・・・。

だけど、そうしたら、あのキスは一体何だったの?

そこだけが私はずっとひっかっかってるのよ。教えてもらったっていいよね。

「じ、じゃ、なんであの夜、」

そう言い掛けて顔を上げると、ショウヘイの後ろに部長がゆっくりと歩いてくるのが見えた。

「松坂部長。」

思わず、半分がっかり、半分ほっとして部長に声をかけた。

ショウヘイもゆっくりと背後を振り返った。

「お疲れさまです。」

二人でペコリと頭を下げる。

「いや、お疲れ。今日は二人を付き合わせちゃって悪いね。村上さんも忙しい中来てくれたんだね、ありがとう。」

「いえ、こちらこそお声かけて頂きありがとうございます。」

松坂部長は一瞬不思議そうな顔をして、ショウヘイをチラッと見た。

でも、すぐににこやかな表情になって何度も頷きながらショウヘイの肩をポンポンと叩いた。

え?何?私何か変なこと言った?

「お店は?」

部長はショウヘイの方に顔を向けた。

「はい、このビルの36階にあります。」

「ありがとう。じゃ、時間だし行くか。」

「はい。」

ショウヘイは一礼すると、部長よりも少し前を歩き始めた。

部長と私の歩調に合わせて、少し前に歩く調子はさすが営業で鍛えられているだけあるなと関心する。

「澤村くん、お店は僕が頼んどいたお店なのかな?」

「はい、イタリアンがご所望でしたよね?丁度いいイタリアンのお店があったのでよかったです。僕の同期もよく接待で使うくらいのおいしいイタリアンなので間違いはないと思います。部長のお口に合えばいいのですが。」

ショウヘイは部長を見て穏やかに笑った。

こんな穏やかに笑えるんだ、ショウヘイって。

その横顔を見つめながら、胸がキュウッときしんだ。