「オーストリアは、治安はいい方だけど空港はどこの国でも気をつけた方がいいよ。日本ほど安全な国はないと思ってた方がいい。」

彼は前を向いたまま言った、

「海外には慣れてるんですか?」

「仕事でよく海外出張してるから。君よりは慣れてると思う。」

また出た、余計な一言。

ほどなく警察についた。

彼は私に置き引きにあった時の状況を尋ねながら、ポリスに流ちょうな英語で伝える。

ふぅん。

英語しゃべってたら、何しゃべってんのかわからないから格好よく見える。

とりあえずの手続きが終わり、警察から出た。

「これからどうするの?所持金は?」

彼はスマホをいじりながら、興味があるのかないのかわからないような顔で聞いてきた。

「所持金は・・・少し。食事代くらいならなんとかなると思うけど。どうしたらいいんでしょ。」

スマホから私にチラッと視線を向けた。

「君って、さっきからこの期に及んでかなり他力本願だよね。もっと自分でこうしたいとかああしたいとかないの?」

一番きつい一言だった。

私がこれまで生きてきた中で、何度か近しい人に言われ続けてきたこと。

他力本願。

ーーーなんでもかんでも人に聞いて、自分で決められないの?

タカシにも何度かあきれた顔で指摘されたっけ。

だけど、こういう状況では、どうしていいか本当にわからないんだもん。

しょうがないじゃない。

何も言えずうつむいた。

「じゃ、さ。」

彼はスマホを見ながら続けた。

「しょうがないから、俺の泊まるホテルに来いよ。一人分くらいの簡易ベッドくらいなんとか入れてもらえると思うし。」

は??!

いきなり何を言ってるの、この男は。

見ず知らずの、素性もわからない、この失礼な物言いの男と同じ部屋に泊まれだなんて!

きっと、助けてやった報酬に一発やらせろ!なんて、夜な夜な襲ってくるんじゃないでしょうね!

思わず身震いした。

「そ、それは結構です。なんとかしますから。」

彼から一歩後ずさりしながら言った。

「なんとかするって、お金ないんだろ?外で寝泊まりする気かよ。そんなことしたら、お前もう日本に戻れないかもしれないぞ。」

「だって・・・。」

それはそれで恐い。

思わず言葉に詰まった。