結婚適齢期症候群

言い返そうとした時、

「そんなだから振られるんだ。」

彼は笑うのをぴたっと止めてクールに言い放った。

顔に上昇した熱が一気に引いていく。

･･･こいつ、まじ最悪。

ちょっとでもドキドキした自分が間違いだったわ。

私はビールの缶をドン！と音を立ててテーブルに置くと、

「そんなだから、あんたも！」

と言いかけて言葉を飲み込む。

「あんたも、なんだよ。」

ショウヘイは、ほおづえをついて私の深意を探るような目つきでじっと見つめてきた。

これこそまさにキツネに追い詰められたウサギの心境。

「いいから言ってみろって。」

「あの、役員の娘さんと、なんていうか、･･･うまくいかなかったとか？」

私の声は言いながらだんだんと小さくなった。

っていうか、言ってしまった。

その瞬間、彼の表情が強ばった。

「役員の娘･･･って、なんだってそんな。」

だけどすぐにいつものクールな表情に戻る。

「そんな個人的な情報まで君の耳に入ってんだ。」

しまった。

ここだけの話にしとくべき内容だったのに。

言ってしまってから、後悔の嵐だった。

「言っておくけど、恋愛を成就させたことのない君に俺のことをとやかく言われたくないね。」

「ご、ごめんなさい。」

思わず謝った。

これは、明らかに私の失言だと思ったから。

「君がちゃんと結婚できた時、俺に愚弄なりなんなりしてくれよ。何も知らない君が言うべきことじゃない。」

全くその通りだった。

何も知らないわけじゃない。

役員の娘と離婚してここに飛ばされたことも実は社内で噂になってる。

そんな噂、誰が流したのかわらかないけど、今私が見えてる以上に傷ついてる彼には更にひどい仕打ちだと思った。

「人事部では俺のその情報、回っちゃってるの？」

彼はコーヒーを飲んで、深く息を吐きながら尋ねた。

「人事部皆に回っちゃってるかどうかはわからないけど。」

「･･･そうか。」

多分。

どこまでこの噂がまわってるのかはわからなかったけど、そう言わないといけないような気がした。

「でも、君が知ってるってことは、それなりに広まってんだろうな。別にいいけどね。俺が役員の娘と別れただろうなんだろうと、周りが知ってたところで俺が自分自身の仕事を全うすることには何の問題もないと思ってるから。」

「何も問題はないわ。あなた自身が仕事をきっちりやることには全く支障にならない。私だって全く気にしてないし。だけど、」

「だけど？」

彼の切れ長の目がくいっと鋭く私を見上げた。

「それを問題にしてないっていいながら、一番問題にしてるのはあなたじゃない。」

「は？」

彼はコーヒーカップをテーブルに置いて、私の方にしっかり向き直った。