「もうちゃかさないで。昨日会ったばかりの人に恋するなんてわけないじゃない。」

昨日会ったばかりじゃないけど・・・。

必死に顔の熱を取り払う。

「そうねぇ。チサは一目惚れっていうのは今まではなかったか。それなりにその人なりを知ってって・・・って感じだったよねぇ。」

「そうよ。その通りだわ。」

「じゃ、余計に彼の予備知識として入れといた方がいい情報かもしれない。」

「安心して。澤村さんはタイプじゃないから。」

「タイプかどうかは、これからわかってくるんじゃないの?会ってばかりじゃわかんないでしょう?」

澤村ショウヘイに関しては、いつも以上に絡んでくるな。

思わず腕を組んでため息をついた。

「ごめんごめん、関係のない前振りが長すぎるよね。」

私が不機嫌になった様子を見て取ってか、マキはペロッと舌を出して謝った。

「澤村って人。」

思わず喉の奥がゴクリと鳴りそうだった。

つとめて冷静にコップのお茶を飲んだりする。

「こっちに異動する直前、」

もう一度お茶を飲む。

胸の辺りがざわざわした。

「・・・離婚したんだって。」



コップをそっとテーブルに置く。


ふぅん。

ってことはバツイチなんだ。

・・・ば、バツイチ?!


一瞬マキの言ってる単純な内容がピンとこなかった。

まさか、まさかのバツイチ?

バツイチホヤホヤなわけ?


頭の中はパニックだったけど、必死に言葉を選ぶ。

「そ、そうなんだ。結婚してたのね。でも、まぁ、今時離婚も珍しくないんじゃない。」

「それが、その離婚がややこしいらしくてさ。そもそも、うちの会社の役員の娘と結婚してたらしくて。ほら、海外営業部長兼任してた河村部長よ。やっぱ役員の娘の離婚となると、今まで保障されてた地位が揺らぐわけよー。何もなければ海外営業部のホープとして、トントンと上に上がっていけたものを。役員の立場もあるじゃん?だから営業外されて人事部に飛ばされたんじゃないかって、もっぱらの噂よ。」

仕事上のトラブルじゃなかったの?

なんだろ?

たった一度結婚していたっていうだけで、こんなにもその存在が突き放されていくような感覚。

もちろん、何も思っちゃいないわよ。澤村ショウヘイのことなんて。

だけど、変なんだけど、少し凹んでいる自分がいた。