「澤村くん、村上さんにはちゃんとご指導頂いたかな?」

課長はそう言いながら、おどけた調子でショウヘイの肩を叩いた。

「ええ、しっかりご指導頂きました。村上さん、これからも色々教えて下さい。」

ショウヘイは、課長に気づかれないようにニヤッと笑った。

ふん。

思わずショウヘイの視線から目をそらした。

「ところで、澤村くんは何年入社だったっけ?」

「平成18年入社です。」

「ってことは、今32、3歳ってとこか。」

「はい、今年で33になります。」

へー。

こんなんで私よりも3歳も年上だったんだ。

年齢よりも若く見えてた。

「村上さんより、少しお兄さんだな。」

岩村課長はハッハッハッと大きな声で笑った。

何がおかしいのかわからないけれど、愛想笑いをしておいた。

「澤村くんは営業部のホープだったんだけどな・・・。」

課長はそう言い掛けて、すぐに口をつぐんだ。

触れちゃいけないとこだったんだろう。

「ま!30代といえば、自分の技術力をステップアップすべくがむしゃらに働く時期だよ。澤村くんも、これまでとは畑が違うかもしれないけれども、この人事部で君のマンパワーを最大限に生かしてくれ。期待しているよ!」

そして、コーヒーカップを手に持って、お茶室から出て行った。

ふぅ。

なんだか落ち着かない。

ちらっとショウヘイの方を見ると、彼も少し疲れた顔をしていた。

オーストリアで聞いた話が少しずつ思い出される。

自分の本意ではない異動。

そんな気持ちをリセットするためにオーストリアに来たんだって。

彼の心の中は今どんなだろう。

しかも、本意ではない部署に置き引きに遭って迷惑かけられた私がいるなんて。