「とにかく、一瞬の出来事だったの。少しだけね幸せだと思った時間があっただけ。その後は何もないわ。」

「ふぅん、意味深なこと言うのね。」

「そんな意味深ってほどでもないわ。」

「はは、相変わらず恋愛に関しては強情なんだから。」

マキはビールグラスを持った手で私の腕をつついた。

「結局、澤村ってオーストリアで助けてもらった男じゃないの?」

「え?」

「そうなんでしょ?私には最初からわかってたわ。チサがあまりにも言いたくなさそうだったから、それ以上は突っ込まなかっただけ。全部見えてたの、私には。」

マキの大きな目が全てを見透かすように私の目を見つめた。

思わずその目から視線を逸らして苦笑する。

「まるで占い師みたいね。」

「実は、そうなの。」

「またまたぁ・・・って、え??」

思わず驚いてワイングラスを落としそうになった。

マキは不敵な笑みを浮かべていた。

「チサにはまた折を見て話そうと思ってたんだけどさ、これまで色々体験教室行ってたでしょ?その中で私にピタ-っとはまったものがあって。確かチサも一緒に受講してくれた「四柱推命占い体験教室」。」

えーっと、そういえば数年前、四柱推命の勉強をすれば自分でも占いができるようになるっていう体験教室行ったっけ?

「これこそ私の新境地って思ってね。あれから内緒で真剣に勉強したのよ。もちろん教室も密かに通ってね。」

「まじで。陶芸どころの騒ぎじゃないわ。」

「で、自分でも占えるようになったの。時々、親戚のおばちゃんとか従妹とか、身内ばっかだけど練習がてら占いで運勢見てあげてね、えらく評判がよくて。そのうち、占いしてたら、その人の少し先の未来がふっと頭に浮かんでくるようになって。」

思わず身震いした。

恐いっていうよりも、マキが少し前から達観したような物言いをするようになったなって思ってたから、まさしくそれだったんだって。