鞄の中のスマホを見る。

ショウヘイからの連絡はない。

普通、もう少し気にしない?好きな女性に対しては。

時々あのクールな表情から本心がわからなくなる時がある。

駅の改札を抜け、駅前のおそば屋さんに入った。

久しぶりだな、ここ。

高校3年の時、塾帰りにどうしてもお腹が減ってしょうがなくてよく入ったっけ。


ショウヘイ・・・今日の私の姿を見て、やっぱり元奥さんの方がよかったなんて思ってんじゃないかしら。

よりが戻れば、また営業の仕事に戻れるわけだし。

営業の仕事・・・。

彼がずっとやり続けたかった仕事だよね。

その選択をしなければ、会社から追い出される。

せっかく人事部で奮起し始めてたっていうのに。


っていうか、私がショウヘイを引き留めていたら、ショウヘイは営業の仕事に戻れない。

戻れるどころか、仕事すらまともに出来ない場所に行かされちゃうってことじゃない?

それって、私どうすればいい?

彼の立場をわかっていながらも自分の気持ちに正直に生きろって?

そんなこと。


・・・無理に決まってるし。


それでも私のそばに引き留めきれるほど、自分が大した人間だとは思ってない。


注文した天ぷらそばが運ばれてきた。

こんな状況でも、天ぷらみたいに濃いものを食べれる自分って何?

エビ天を頭からぱくりとかぶりついた。

おいしい。

思わず声が漏れそうになる。

声が漏れる前に、目から涙が溢れ出ていた。

慌ててハンカチで涙を拭き取る。

エビ天、すごくおいしい。

このエビ天を食べれるんなら、私ショウヘイから離れてあげてもいい。

なんだそりゃ。

溢れる涙を拭きながらエビ天にかぶりつく。

変な光景だよね。

我ながらその光景を想像して笑えてきた。