結婚適齢期症候群

お料理が次々と運ばれてくる。

鶏肉のソテーやマスの塩焼き、サラダにトマトスープ。

どれもあっさりとした味付けで素朴な料理だった。

だけど、疲れた今の自分の体にゆっくりと温かく浸透していく。

食事に癒されるって、こういうことをいうのかしら。

感動しながら食べた。

「おいしいだろ?」

彼は鶏肉を頬ばりながらようやく私に視線を向けた。

「はい。とっても。」

「ここの料理食べたとき、なんていうか懐かしいって言うか、ずっと探してた味だなって思ったんだ。」

「私も、なんだかそういう印象持ちました。食べ物に癒されてる感じがして。」

彼の口の動きが止まって私をじっと見つめた。

な、なに?

私、余計なこと言った??

「な、何でしょう?」

マスの塩焼きをつまみながら、敢えて彼から視線を外して聞いた。

「いや、食事に癒されるって、的を得た言い方だなと思って。」

「そうですか。褒められてるんでしょうか?」

「まぁ、そうとってもらっても。」

そんな中途半端な言い方せずに、はっきり褒めろっての!

ビールを喉に流し込む。

おいしい。

ウィーンってこんなに食べ物がおいしい街だったんだ。

「ところで、別にどうでもいいかもしれないんだけど、君はどうして1人でここに来たの?」

どうでもいいなら聞くな。

こいつは、どうしても素直にしゃべれない人間なのかもしれない。

「そうですよね。1人で三十路の女がウィーンだなんてね。不思議でしょう。」

ビールの酔いも手伝って、少し挑発的な気持ちになっていた。