結婚適齢期症候群

ホテルから旧市街を歩いていく。

彼は随分、この辺りに詳しいのか地図も見ずに目的地らしき場所に向かって行く。

さすが音楽の都、ウィーン。

街角で、高尚なメロディを奏でるグループにいくつも遭遇した。

「ここ。まだあったんだ。よかった。」

彼は、美しく花で飾られた一軒の老舗レストランの前で立ち止まった。

「ここ、ですか?」

「うん。もう随分前に来て以来だったから、正直まだあるか心配してたんだけどよかった。」

「随分前に来て以来って、ウィーンは初めてじゃないんですね。」

「ま、出張で何回か来たり、個人でも何回かだけどね。」

何回かだけどね、って、何回も来てるってことがすごいんですけど。

店内はとても明るく、地元の人達で賑わっていた。

にこやかな店主らしきおじさんが、私達のテーブルに注文を聞きにきた。

彼は何やら懐かしそうな表情でおじさんに話していると、おじさんも「オー!」と言って、彼の肩を嬉しそうに叩いた。

全く何を言ってるのかわからないけど、きっと2人は共通の思い出があるんだろう。

「君は何が食べたい?肉?魚?」

「何でも。お薦めがあれば、お願いします。」

「好き嫌いはないの?」

「ないです。」

「珍しいね。」

「そうですか?」

いちいち気に障る。

好き嫌いないことはいいことじゃないの?

まるで、変わり者みたいな言い方しないでよ。

「じゃ、ここのお店のお薦め料理、いくつか頼むね。」

私は軽く彼にうなずいた。