それまで黒天と白天のやり取りを静観していた凛ではあったが、さすがに痺れを切らしたのか会話に割って入る。
なんと言っても、はやく帰って碧羽とイチャつかねばならない。そんなドス黒い欲望に満ち溢れた凛は、たとえ神であろうと敵に回すのも厭わなかった。
「なんだ言ってみろ」
凛の乞いに対し、黒天が聞き入る姿勢を取った。さすがは神だ、心はひろい。
「ここが何処なのか教えて欲しいんだよね。それになぜ僕が、こんな辺鄙(へんぴ)な処にいるのかも知りたいし。だいたいさ、さっきまで僕は碧羽と甘酒を飲んでたんだ。
それがどうして、気づけば僕はここで寝ていたの? 最後に……ソレって、もしかして狐?」
凛は遠慮の欠片もなく、次々と言いたいことを口にした。それから黒天と白天の背後でじゃれ遊ぶ、仔狐に指さして訝しんだ。
けれども凛が胡乱に思うのも、不思議ではなかった。だって翡翠ヶ丘に狐など、いるはずがないからだ。
「おい欲望の権化! 仮にも神の眷属を指さしてんじゃねえ」
「これ黒天。仮にも神の眷属が、そのような口汚い物言いをする物ではありません」
黒天の台詞を引用した白天が、巧みに語呂を変えてそれを窘める。

